2024年5月25日(土)新潟県民会館公演
舞台は「敦盛」の演奏から始まった。
撥音が会場に響き渡り、私は「とうとう始まったのだ」と思った。
緊張を少し感じ、舞台袖から周りを見渡す。
影アナウンスの熊倉さん。優しい声で会場を包み込んでくれる。
舞台を成立させるためのほぼすべてをお任せした信頼する舞台監督、権藤さん。福岡から駆けつけてくれた。
この舞台の始まりからの伴走者である、映像作家の木村あさぎさん。沖縄から来てくれて、ずっと一緒に制作してくれた。
ホワイエには様々な業務で支えてくれた多くのスタッフ。
そして舞台には私の師匠、古澤史水。
今までの人生で出会ってきた、私が大切に想う信頼する方たちと共に舞台はつくられた。
本当にありがとうございます。
緊張は、すーと引いた。皆の顔を見て、安心した。
こんな気持ちで舞台に立つのは初めてだ。
この空間にいるお客様、スタッフの皆にとって、いい時間にしよう。
笑顔でみんなが日常に戻れる、そんな時間に。
古澤史水先生との初めての二人会は特別なものであり、大きな挑戦をしたいと決めていた。
挑戦とは…「物語の世界を深く感じてもらう」という目的に向かい、様々な視点からアプローチすること。
「道成寺」の物語は一人の娘が旅僧に恋心を募らせ、やがて恨みの念によって自らを蛇に変え、男を焼き殺してしまう、そして四百年後へと物語の場面は移り変わる。
道成寺を語るとき、この娘は狂った女として扱われる。
しかしこの女の内面で起こる変化、その背景にはあまり言及されることはない。
そこで女の内面の変化に焦点を当てて、映像作品を制作したいと考えた。
娘を演じるのは、人形浄瑠璃「猿八座」座長 西橋八郎兵衛氏。
人間より時に生々しく感じる、西橋八郎兵衛氏の遣う人形の妖しく美しい魅力。
映像作家の木村あさぎ監督により、それらが女の内面に迫る映像作品となり、その後の「琵琶 道成寺」に影響を及ぼすことができたと思う。
琵琶語りとその他の表現。 映像を媒介し、琵琶語りへと繋がっていく。
分離しない、ひとつの物語として。
演者の心にも影響し合い、それは「琵琶 道成寺」に命を吹き込む必要な流れであった。
何者かも知れない琵琶奏者がはじめたこの舞台。
そこに140人のお客様が集ってくださった。 お一人お一人のお顔を見てご挨拶したいと願うほどに、このご縁に感謝しております。
古澤史水・巫美麗二人会はここからが始まりです。
今後も皆様に楽しんでいただける舞台をお届けできるように挑戦を続けて参ります。
皆様にとって、ここでの時間がたった一滴であっても明日への力となったならば、これ以上嬉しいことはありません。
ありがとうございました。
写真:笹川 浩史
(次は7月26日(金)東京 鶴めいホール公演です。いざ!)